Vol.18│“照明デザイナーのミッション“とは・・・?

自由な表現の場に職業の違いが見える

投稿日:2012,12,20

 

楽しいイベントに招かれて

今年も残すところ、あとわずかとなりました。「師走」と呼ばれるこの季節は、僧侶でなくとも、何やら慌ただしく時を過ごしてしまいそうです。しかし、できればこの季節に、改めて自分の仕事や生活を振り返ったり、見つめたりすることも重要かと思うのです。なぜなら、もうすぐ新しい年がやってくるのですから・・・。

そんなことを考える時節ですが、私は先日、彫刻家の五十嵐威暢(たけのぶ)さんからお誘いを受け、テラコッタ粘土のワークショップイベントに参加させていただきました。照明デザインとは全く異なった雰囲気の楽しいイベントだったのですが、ここで思わぬ難題と遭遇いたしました。粘土を前にして「ふーむ!」と腕組みして唸らなければならなかったテーマとは?

それは、「自分の職業とは?照明デザイナーとはどんな仕事なのか?」であったのでした。




粘土を目の前に

五十嵐威暢さんは世界的に活躍されている彫刻家で、型にとらわれず自由に思うままに作り上げる即興(インプロヴァイゼーション)のような作品も多く輩出されています。今回お誘いいただいたイベント「五十嵐威暢テラコッタの新しい世界」もまさに、参加者の即興の創造力を引き出すようなものでした。それは目の前に四角いテラコッタ粘土をボンッ!と置かれ、「はい、これで自由に何かを作ってください」というものだったのです。

ワークショップは一般参加者のほか、五十嵐淳さん、鈴野浩一さん、伊藤一章さんという3名の建築家と女優の木内みどりさん、そして私という、普段彫刻とは何の関係もないメンバーがゲスト参加者として招かれました。きっと、そういった彫刻と関わりのない人に作らせたら面白いだろうという目論見だったのでしょうが、その期待通り、現場はとても興味深い結果となりました。

会場となったのは、東京の三田にある建築会館の中庭でした。行ってみるとそこには、トンカチや肉たたきや、石、縄、ホウキなど、おそらく一般的な彫刻用の道具ではないものなど、不思議な道具が用意されていたのです。



ハリウッドライト photo by Toshio Kaneko

会場に用意されていた道具の数々

「どんな使い方をしても自由です。」そう言われてスタートしたものの、いざ自由に遊んで作っていいよと言われても、どうしたら良いものか、悩んでしまいます。お隣の若手建築家の五十嵐淳さんの様子を覗くと、やはり、四角いヤツ(粘土)を目の前にウーン!と唸っています。「建築家だからな〜、いろいろと諸条件がないと・・・、自由に作れと言われるとな・・・」などと言いながら、しばらく考えていらっしゃいました。



自分の仕事とは何か

結局、若手建築家の五十嵐淳さんはワイヤーで四角い粘土の端っこにスゥーッと切れ目を入れ、板状になったところをペロッと倒して・・・その状態でのフィニッシュとなりました。では、私はというと、やはり同様に悩みました。そこで思ったのが、自分の仕事のことです。

照明デザイナーは光によって空間の気配をつくる仕事であり、モノのカタチに工夫する仕事ではないのです。もちろん、照明器具の性能にかかわる形状や光を受ける建築の素材や形状には人一倍こだわることもあるのですが、答えは一つしかないわけではないので、フレキシブルな発想こそが重要だと考えていました。

デザイナーとはいえ、いわゆるモノづくりをしないのが照明デザイナーではないのか?
そう自問自答したら、急にすっきりしてきたのです。照明デザイナーは何かカタチを作ろうと頑張ってはいけないのだと気づいたのです。

それからは粘土を全部、薄い板状に一旦スライスして、四角いコースターのようになった粘土を空にポーンと投げてみました。すると、床にポトッと落ちた粘土には床の模様が不作為に柔らかな粘土の表面に写ります。これだ!と思い、残りの粘土も次々に空に投げ、床に打ち付けられた粘土が不作為に形作られるという“現象”を楽しんだのです。

 

スライスした粘土を投げているところです(笑)

いやー、なかなか楽しい時間を過ごさせていただきました。この考えに至ったことで、五十嵐威暢さんが私を誘っていただいたことに対する期待にこたえられたのではないか!と思い、ひとり満足して帰路につきました。

それから、数週間してそのときのテラコッタが焼かれたクッキーのような形で私のもとに届けられました。20数枚のテラコッタクッキーならぬ、私のささやかな作品を一枚一枚手に取ってみると、あの時、空に向けて投げ上げた柔らかな粘土がピシャッ!と床のタイルの模様を吸い取った瞬間がよみがえってまいりました。投げ上げる瞬間、それはまるでテニスのプレーヤーがサーブのトスを空中に上げる瞬間に似ていたなぁ・・・。そんな妄想すら広がりました。

2012年という年を納めるにあたっての素敵なイベントであったこと、そんなイベントにお誘いいただいた五十嵐威暢さんに感謝の気持ちがこみ上げてまいります。ありがとうございました。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。







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