Vol.13│想像力をかきたてる “国民ソケット”

愛する気持ちが文化の質を向上させる

1950年の週刊朝日に掲載された松下電工、国民ソケットの広告(画像引用元:Wikipedia
投稿日:2012,10,04

昭和の発明が現代に活かされる

最近面白い照明パーツを入手いたしました。その名も「国民ソケット」、いや正確には「2号新国民ソケット」と申します。とにかく名前が面白いと思います。「国民ソケット」というかなり振りかぶったネーミングは、この商品が開発された昭和初期を彷彿とさせるし、さらに「2号」と表記されているところをみると「1号」や「3号」もあるのだろうなぁ・・・?と一連のシリーズからなる商品群であることが分かります。さらに「新」と言っているからにはこれが開発されたのちに更なる改良が施されていることが伝わってきます。
 
とまぁ、名前だけでも想像力を刺激されるのですが、上記の広告写真をご覧ください。何か懐かしいと思われるのは私と同じ世代か、それ以上の齢を重ねられた紳士淑女の皆様でしょう!

この商品、確かに私の家にもついておりました。二股のソケットには大きな電球と小さな電球が付いていて、紐を引っ張るとどちらか一方が点灯するか、両方が消灯するかの動作を行っていました。夜になると紐を引っ張り大きな電球をつけるのですが、就寝前には小さな電球に切り替えてほんのりとした灯りの下、「弘靖くん、オヤスミ・・・」みたいに使っていたのです。ほんとに懐かしいです。
 
しかし、みなさん、この素晴らしい商品は昔ばなしではなく、現在でもしっかりとホームセンターなどで売られている現役なのです! とは言え、なぜ今、私がこのレトロな商品を紹介するのか?まずは心動かされたこの夏のお話をいたしましょう。




2又ソケットをLEDに活用すると・・・

2012年、夏の出来事です。私の事務所にてある建築家の方と打ち合わせをした後、暑気払いをしましょう!と冷やしたビールを飲みつつ談笑していたところ、話が家のこだわり照明へと発展し、その方のご自宅では、大変ユニークな工夫をされていることを知りました。
 
なんでもバリ島の民芸品が好きで、バリへ旅した時に購入したセードをフロアスタンドに使っているとのことだったのですが、私が心を打たれたのは、そのスタンドでの電球の使い方です。

その方は「2号新国民ソケット」なる2又ソケットを利用し、スタンドに2灯のLED電球をつけているのです。しかも、ただLEDにしたというだけではありません。2灯のうちの一方は色温度の高い5000ケルビンの白色LED、そしてもう一方は3000ケルビンの色温度が低い電球色LEDにし、必要に応じて昼間には白い光を点灯し、夜になると温かみのある電球色の光に切り替えて使っているというのです。シンプルでありながら、この方の柔軟な展開力に、いたく感動してしまいました。



77年の時を経てなお活躍できる発明 展開

Panasonic「2号新国民ソケット WH1021PK」 画像提供:パナソニック株式会社

 

その後早速、ソケットのことを調べてみると、それは「2号新国民ソケット」というものだとわかりました。 「国民ソケット」なる商品は昭和の初期、1935年に松下電気器具製作所、今のパナソニックで創始者である松下幸之助さんが開発したものだそうで、2灯ソケット&コンセントで構成される「1号」、2灯タイプの「2号」、1灯とヒモのスイッチのみの「3号」があったようです。そして、後に新型となり現在も売られているのが「新国民ソケット」なのです。

この名前のインパクトにも一本とられてしまいましたが、昭和の初期に一世風靡した商品が今の時代も売られていることも驚きです。そして、満を持して、時代の先端であるLEDと掛けわせた“見立て力”には脱帽いたしました。しかも、昼と夜で色温度の違う照明をこんなにもカンタンな方法で切り替えて楽しむのも非常に新しいと感じました。

照明というのは人間の知恵の集結のようなもので、それが面白いところでもあるのですが、LEDという最新技術で作られた照明だけではなんとなく堅苦しく面白みがなかったところに、昭和の時代に作られた国民ソケットと組み合わせるという知恵が入ったことで、やわらかな風がふーっと吹きこまれたように、私たちの生活に歩み寄る道筋が見えた気がいたします。

LED電球の中には、一つの商品で色温度や明るさを変えることができる便利なものもあるのですが、これは一つのアイディアであり、さらなる展開を考えることができます。

この秋から冬にかけて、「国民ソケット」にどんなランプを付けたら面白いか?というテーマをもって日曜日のホームセンター電球コーナーを巡りながら考えてみたいと思っています。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。







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