Vol.123|城下町で門燈の意義を思い出した

ホーロー引きのセード門燈
投稿日:2017,05,25
photo by LIGHTDESIGN INC.

九州の城下町にて

昨年の夏から秋にかけて、大分県竹田市のとある現場へ何度か足を運ぶ機会がありました。竹田市は、大分空港から車で2時間ほど九州山地に入ったところにあって、豊かな湧き水と共に、美しい城下町の街並みが広がっていました。

この町にある、かつてパーマ屋さんだった古い建物を友人のランドスケープデザイナーが生まれ変わらせる・・・エネルギーを極力使わない、これからの新しい暮らしの在り方を模索する研究拠点にする!というプロジェクトに感銘を受け、その照明デザインを担当することになったのです。初めてこの町を訪れ、散策していると、ある一軒家のお宅の玄関先にある非常に印象的な明かりと出逢うことができました。



懐かしい照明

それは緑色のホーロー引きの傘がついたクリアの白熱電球が灯る門燈でした。私はそれを目にするや否や、なぜか急に子供のころにタイムスリップしてしまいました。

・・・そこは、母の実家のある田舎町で、自宅へ帰るために路面電車の停留所へと歩いてゆく途中のシーン。電信柱についていたのも同じホーロー引きのセードの街灯でした。もう50年も前の記憶がここで蘇ったのですが、どちらも光としてはかよわい電燈なのでした。それでも夜の闇を背景にすれば、想像以上に心強く安心感を与えてくれる光景です。

何か懐かしい故郷に帰ってきたような不思議な感覚を覚えながら、それを見つめていると、その家の中から家主と思しき方が出ていらっしゃいました。「こんにちは、この街にお邪魔していますが、いいですね!この門燈は・・・」と話しかけてみました。すると、そこからホーロー引きの門燈論議が始まったのです。

実はこの頃、ちょうどNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」の密着取材中で、この時の門燈論議の様子も収録されています。放送は済んでしまいましたが、NHKオンデマンドでも見ることが出来ます。(2017年12月20日まで)



門燈の役割とは?

ホーロー引きセードランプ(写真右上)を設置した様子
photo by LIGHTDESIGN INC.

番組では、竹田の町のあかりのシンボルとして、このホーロー引きの門燈があって、現場にも、同じものを探して、取り付けたのですが、その放送があった後に、番組を見たという知り合いから、ある疑問が寄せられてきました。

それは、門燈は何のためにあるのか?というシンプルな問いでした。話によれば、その方は東京に生まれて、ずっとマンション住まいだったこと、そしてマンションの外も商店街が連なっていて、夜の街の暗さを知らないというのです。

そこで、改めて門燈の意義について考えてみました。・・・門燈は、夜でも明るい都会では必要ないかもしれませんが、街灯が少なく暗い田舎では家々の軒先に明かりを灯すことが夜道の歩行のために必須だったのでしょう。加えて、そこに灯っていることで、家族の帰りを待ってますよ!気を付けてかえって来てくださいね!というメッセージが込められていたように思います。心がこもっていた明かりだったのです。



光がコミュニティをつくる

門燈の意義について話していたら、事務所のスタッフからこんな意見も聞こえてきました。そのスタッフの生まれ故郷では、家族は午後7時くらいまでには全員帰っていたけれども、その後も門燈はある時間帯まで点けていたというのです。それは夜でも近所の人が往来したリするので、“ウチはまだ起きています、用事のある方は訪ねていただいても大丈夫です”という意味で灯されていたというのです。その門燈が灯っているうちには、近所の人が回覧板を持ってきたり、おすそ分けの魚や野菜などを届けたりと往来をしていたとのことでした。

田舎ではこんなケースもあります。例えば・・・近所に住む高校生の息子さんは、最近部活のために帰りが遅いので、安全のために、帰ってくるころまでは、うちも門燈を点けておこう・・・田舎の道は街灯の数が少ないし、一軒家では雨戸を閉めてしまうと窓明かりが一切漏れないので、せめて門燈くらいは点けておきましょう・・・!そんな計らいがコミュニティの絆を深めていたように思います。

このように、本来門燈には、様々なメッセージや思いが込められていたのでしょう。
そう、竹田に誕生した新しい研究拠点「perma」にも、そんな心のこもった明かりが灯っています。この夏にも、また訪れたいものです。
迎えてくれる光があるのですから。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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