Vol.77│ひるです、よるです。

建築デザインのコンセプトと照明
投稿日:2015,06.26
photo by Heji

最近、気になった言葉

本日のブログタイトルは、「ひるです、よるです」とさせていただきました。なんだか、「あんです さんみゃく(アンデス山脈)」・・・みたいな軽快な音の響きです。実は、この言葉、最近、私の頭の中のかなりの部分を占めている大変重要なワードとなっています。その理由は、あるプロジェクトのプレゼンテーションでとてもシビアなご指摘を受けたことに事の発端がありました。それは、大きな超高層ビルの外観照明デザインのプレゼンテーションでのこと、「あなたは昼間の建築をよく見ていないのではないですか?」という、ちょっと厳しいご指摘を受けたのでした。

そんなことは断じてありません!私は、光で夜の飾りをつけようとしているのではありません。建築のデザインの特徴を見極めて、夜間にその姿が暗闇に埋没しないように、建築デザインの特徴に光を与え、夜空を背景に自然に浮かび上がることをイメージしています・・・・。と弁明したものの、ひょっとしたら・・・、確かに・・・、もう一度・・・、昼の建築のデザインを見直し、再考すべきかもしれないと考えました。建築の昼間の時間と夜の時間をどう分析し、構築すべきか? 今回はそんな話題についてお話ししたいと思います。

 



照明デザインのスタンス

私がたずさわっている照明のデザインは、まず基本的な前提として、その場所に建築があり、昼間はどのように見えるのか、そして徐々に陽が落ちて夜の闇が迫ってきたときに、建物がどのような光をまとっていくのか? これらを建築デザインのコンセプトを尊重しながら照明デザインとして提案してゆくことです。できるだけ自然に、しかし時には力強くそして何よりもその建物の個性が伝わるように光をデザインしていくのです。

しかし、世の中にはそういった考え方とは異なって、昼は昼、夜は夜、または夜こそ、その建築の姿である!・・・といった具合に、昼とは無関係に夜の光が求められるような施設もあります。その代表例としては、日本におけるパチンコ店やラスベガス、マカオなどのカジノ建築があります。これらの都市における建築は、夜の表情を第一義的にデザインが施されています。昼の景観はその結果なので、昼を第一とする普通の建築物とはおおいに異なった発想をすることになるのでしょう。

20世紀までは、夜に光が満ち溢れる歓楽街では、ネオンが煌々と輝き、昼夜感覚を狂わせるような、日々のストレスを大いに発散させる夜の街が全国に分布していました。それが21世紀になり、こういった施設以外にも、夜をむねとして考えられる建築が出現してまいりました。特に青色LEDが実用化されるようになってから、そういった光の建築物の登場に拍車がかかってまいりました。それは、赤青緑の光源をコンピューターで巧みに色をコントロールする「フルカラーライティング」と呼ばれる照明技術がなせる業でありました。そして、瞬く間に人気が爆裂し、アジアや中東の諸国を中心に全世界を席巻したのです。

建物全体がカラフルに色を変え、あるいは映像的な表現を建築自体がまとっているような建物のことを私たちはいつしかメディアファサードと呼ぶようになりました。建物がいわば巨大な広告看板あるいはテレビ画面のようになるのですから、いったい昼の顔がどうであるのか?など誰も想像できない状態です。

夜のラスベガスの様子



昼から夜への自然な変化

ブレードランナー的な混沌とした都市のエネルギーを映すような、やや過剰なメディアファサードの流行は、幸い私たちの暮らす日本国においては、どこ吹く風・・・といったとらえ方です。一部の商業施設では、このLEDによるメディアファサードっぽい表現が見られたものの、その演出は極めて控えめでした。誰もが、「パチンコ屋さんにならないように・・・」(パチンコ屋さんのにぎやかな照明が悪いと言っているのではありません)という自制の念があったのかもしれません。

日本という国は、カラフルな光や色彩だけでなく、モノトーンの美、粋なデザインは省略兼帯、ミニマルデザインこそすぐれたデザインとする側面も持ち合わせています。そもそも、そのような文化的な背景をもつのですから、建築の夜間景観をどうするのかという議論においても、大変慎重に取り扱わねばなりません。安易に、「こんなアイディアが面白い!」なんて言うのはもっての外です。どうしてそのような光が必要なのか?をきちんと説明しなければなりません。誰もが納得できる極めてシンプルな光、そのうえで夜間景観が魅力的で、ランドマークとしても十分な機能を果たし、誰からも愛される光が求められるのです。そして、それらは、昼の建築デザインをむねとし、控えめながらも建築デザインを尊重するアイディアが求められています。
 
さて、それでは冒頭のプロジェクトの話に戻りましょう。改めて昼の建築の顔を見直してみることにしたわけですが、ほんの少しだけ、解釈をしなおさなければならない箇所がありました。後にその部分を修正し、改めて最新案を大きく投影してみてみました。昼のデザインがあり、やがて陽が落ちて夜の姿が見えてくる・・・、同じアングルで描かれた昼・夜二つのパース図をゆっくりと重ねるように入れ替えると、最初の案よりぐっとスムースに変化するようにみえてきました。

それは昼間の姿から唐突に無関係に夜の姿に変わるのではなく、自然な形で変化するような照明デザインとして修練された感がありました。そう、建築の“昼の表情”と“夜の表情”を二つ別々にデザインしてはいけません。ひるです、そしてよるです・・・と、今日では、昼から夜へと連続するひとつながりの建築の表情を丁寧にデザインしなければならないのだ・・・、そんな基本的なことを考えさせられる言葉なのでした。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




 

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