Vol.73│宵を待ちたいルーフトップガーデン

気鋭のマリアージュで生まれた素敵な空間
投稿日:2015,04,30
photo by LIGHTDESIGN INC.

風が心地よい季節に

こんにちは。東海林弘靖です。日の入りの時間もだいぶ遅くなり、夜の散歩も肌に心地のよい季節となりました。そして、日本はゴールデンウィークのまっただ中です。今日は、大盛況のグランドオープンを昨日迎えたばかりのおすすめスポットをご紹介したいと思います。それは、とあるデパートの屋上の広場空間なのです。

ひと昔ならば、デパートの屋上と言うと、子供向けの遊具が設置されたり、ペットショップがならんでいたりと、遊園地のような空間イメージでした。また近年は、昼間にサラリーマンやOLさんがお弁当を食べたりするようになり、デパート側もそれに対応して緑化やカフェなどの機能を追加し、素敵な空間に生まれ変わっているようです。そのような流れのなかで、私も最近、デパートの新しい屋上空間づくりに参加させていただきました。これが参加したメンバーやテーマなどを含め、なかなか面白いプロジェクトだったのです。

 



素晴らしいメンバーが勢ぞろい

そのデパートというのは、池袋にある西武百貨店です。昨年の夏頃よりこのプロジェクトはスタートいたしました。ほどなく現場を訪れてみると、かなり大きなルーフガーデンであることがわかりました。そして、このプロジェクトの空間イメージとして与えられたテーマがありました。それは、20世紀に印象派の巨匠が描いた庭園です。

また、このプロジェクトには、とてもワクワクするデザインチームが集められました。まず、アートディレクションとして西武百貨店の様々なプロジェクトを手掛けられているグラフィックデザイナーの廣村正彰さん、全体の空間構成とランドスケープデザインは、ランドスケープデザイナーの団塚栄喜さん、それから什器や家具のデザインを担当する若手建築家ユニットのトラフ建築設計事務所といったチーム編成で、あたかも日本代表特別選抜チームのような構成です。そこに私も参加させていただくこととなったのです。

 



「夜の時間」を光の絵具で描く

photo by LIGHTDESIGN INC.

先述の印象派の巨匠が描いた庭園ですが、その絵画をひも解いてゆくと、大変面白いことがわかりました。それは同じ構図の絵がたくさん描かれていることでした。それらの絵は、同じ場所を違う時間帯に描かれたため、異なる光が描かれているのです。まさに移りゆく“光”を描いた画家であったのです。

これには、照明デザイナーとしてのスイッチが入りました。光を描く画家の絵に習って、今度は光で景色をつくろう・・・!と考えるのですから。また、「違う時間帯の景色を描いた」ということは、複数の光のシーンを捉えると解釈することができます。昼から夕方、暮れ、宵へと移り変わる時間を光でどのように魅せてゆくのか・・・が私に課せられたテーマとなったのでした。

 



大人の夜を演出する2つの光

そしてコンセプトとして出来上がったのが、日が暮れてからの時間帯を「暮れ」と「宵」の二つの時間帯にわけてデザインするというアイディアでした。

前者は日没直後のブルーモーメントから始まるとても印象的な時間帯です。薄暮の空と対比する電球色の光がテーマとなる光の景色です。このルーフトップガーデンには沢山の人々が集い、ゆったりとした気分でディナーを楽しむ時間です。奥行のある空間には緑がたっぷりと施されていて、自然に光が与えられています。美しい姿をしたテーブルやパラソルにも楽しそうな光があたえられています。床には特別に用意された青色を基調としたタイルがモザイクのように敷きつめられています。デッキの段差のところからスーッと光が出ていて青い床を印象的にみせています。フードカートのデザインもワクワク感を倍増させています。

さあ、時間とともに次第に空の青も深まってまいります。この広場全体が夜の闇に包まれた頃、照明デザインは第二の夜の光景の準備に入ります。この広場にはゆるやかなカーブのウッドデッキがいくつか点在し、そのステップの段差からスーッと光が発せられていましたが、その色味が少し濃くなってまいりました。円形のテーブルの足元を照らしている光も同じように色濃く変化を始めました。そして気が付けば、空間はロゼ色の光に染められてまいります。自然界では、日の入りに空に広がる色彩です。これが第二の夜「宵」のイメージです。

深まった夜の時間、大人たちが迎えられる豊かで美しい景色が広がります。その屋上広場では一日の疲れを癒してリラックスするもいいでしょう。一人のんびりと夕食をとるのもまた格別です。そうそう、このロゼ色の光は、日本の女性をより美しく魅せてくれる光であり、大人の時間を素敵に演出してくれるという訳です。

ルーフトップガーデンで日暮れから外の心地よい風を感じながら時を過ごし、もう少し夜が深まると雰囲気が変わり、ロゼ色の時間になった時に、じゃあもう一杯ワインでもいただこうかなぁ・・・、そんな素敵な時間を過ごして頂けるお勧めの空間となっているのです。この池袋のルーフトップガーデンで過ごすひと時をゴールデンウィークのスケジュールに加えていただければ大変嬉しいことでございます。

西武池袋本店 食と緑の空中庭園


 

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




 

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