Vol.25│照明デザイナーのノート

適材適所の道具たち

2001年発足当時のライトデザイン入口 photo by Toshio Kaneko
投稿日:2013,4,18

 

独り立ちを考える

4月、新たなスタートを切る季節です。新入生、新社会人はもちろんのこと、新しいプロジェクトに着手したり、あるいは自分で新たにビジネスを始めたなんて方もいるかもしれません。実は我らがライトデザインからも今年一人独立を果たしたスタッフがいます。今回は、彼の独立の過程をお披露目しながら新しい期のスタートに際する心持をテーマに語ってみることといたします。

今回独立を果たした彼は、学生の頃からインターンシップ生として働いていた若者でした。しかし、大学を卒業したからといって、すぐにスタッフとなった訳ではありませんでした。照明メーカーのインハウスデザイナーとして5年の修行ののち、さらに照明デザインのメッカと言えるニューヨークで1年の研鑽を積み、ようやく正式なスタッフとしてライトデザインに入社したという長い道のりを経験しているのです。

ライトデザインに入社して4年、照明デザイン歴はトータル10年という節目に独立を果たしたことになります。昨年より独立への計画を私と相談しながら進めていたのですが(久しぶりに私が独立した時期のことを思い返したりいたしました)、ようやく独立への準備がほとんど整った昨年末のことです。

「ところで独立したら事務所はどうするの?」と聞いたところ、私には少々意外な言葉が返ってきたのです。



厳しいならばリスクを回避?

彼は年が明けて独立するにあたって、「いや、自分は独立していきなり事務所を持つのではなく、まずは自宅でやりながら、身の丈に合った独立の仕方をする」と言うのです。これには、ちょっと異論を唱えざるを得ませんでした。
 
確かに事務所を構えるということはリスクのあることです。いきなり家賃や光熱費が毎月発生してきますし、設備費にもお金がかかります。そこを自宅でやれば、経費も浮いて負担は減るという発想なのでしょう。しかし、それではちょっと、これから起業して新たな第一歩というのには何とも弱いのではないかと思うのです。

私は、独立するということは鳴り物入りでアピールするくらいの出来事と考えてきたのです。このチャンスはたったの1回だけなのです。このタイミングにかけて世の中にバーンと出て行こう!といったイメージは、今の若者たちには描くことが難しいのでしょうか。自分の事務所を持つというリスクを避けて独立し、なんとなく世の中に出ていくということを好む時代なのでしょうか。

確かに景気が上昇してるとはいえ、いまの若者が金銭的に厳しい時代になっているからというのはわからないでもないですが、“なんとなくゆっくりと自宅でやりながら”という考え方は、10年越しの自らの希望を叶える「独立」というパンチのある意気込みとは矛盾やギャップを感じたのです。



自分のスペースは自己PRの場所

2001年発足当時のライトデザイン。 
(左)奧野ビル外観より撮影 (右)ライトデザイン事務所窓辺
photo by Toshio Kaneko

 

私が独立を果たしたのは丁度2000年でしたから、今から13年前のことです。同期の照明デザイナーと比べると後発の独立だったこともあり、早くみんなに追いつかなければという気持ちもあったので、少なくとも事務所だけはちゃんと構えたいという思いもありました。

当時、事務所をつくるにあたっては、極めて強いイメージを持っておりました。それは、テレビドラマ「探偵物語」に登場する怪しい場末の事務所をつくりたい!と考えておりました。そして幸いにして、そのような怪しい雰囲気の事務所が銀座にあるという情報が舞い込んできたのです。行ってみると、そこには重たい手動ドアがついた旧式エレベーターがある、“かなり怪しい!”ビルがあり、すっかり気に入ってしまった・・・。そして、ほどなく「この古いビル内に想像もつかないようなキレイな空間が広がっている」という事務所構想をさっそく練ることになりました。

気が付けば、怪しい探偵事務所風事務所構想から、怪しいビルに入る「白く美しい光の空間」事務所構想へとイメージを変更していったわけです。小さいながらも趣向を凝らした自分らしい空間を作り上げ、開業の案内状も普通郵便よりもちょっと高くなる定形外の一風変わったカードで方々に送りました。すると、独立のニュースを聞いてみんな興味をもってたくさんの人が訪れてくれたのです。事務所ではオープンする前から夜な夜な人が集う、パーティのような状態が毎日続きました。

もちろん、やってくるからには手ぶらで来る人はほとんどいませんでした。私がワイン好きということも知れ渡っておりましたので、あふれるようなワインに囲まれる素晴らしい時を楽しませていただいたのです。不思議なのは、それだけ人がやってくると、初めてお会いする方も多かったことです。また、人が集まるということは、情報も沢山やってまいりました、そして、嬉しいことには、ワインのほかにお仕事を持ってきていただいた方もいらっしゃったことでしょう!

当時は楽しい気持ちでワクワクしながらやっていましたが、いま考えると独立は世の中へのデビューであり、事務所設立は自分をプロデュースする場だったのだと気がつきました。
人はそれぞれの考え方があると思います。しかし、このチャンスを生かし、さらなる発展を遂げるためには、ここで大勝負をかける気持ちが必要なのです。そして、それは「事務所」という形に現れるように思うのです。

成功のカギは、事務所にあり!

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






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