Vol.105|照明リテラシー

照明を読み解く力
投稿日:2016,08,26
photo by Moyan Brenn

リテラシーとは?

最近、リテラシーという言葉を耳にすることが多くなりました。英語のLiteracyのことなのですが、調べてみると、読み書き能力とか、識字、教養といった意味になるようです。現代では、そこから転じて「ある分野や対象などについて、基本的な知識や技能などを身につけ、その分野の文書を読み書きしたり、対象を適切に活用できる基礎的能力のこと」(情報元:IT情報辞典)を示すようになったそうです。例えば、メディアリテラシーだとか、金融リテラシー、情報リテラシーなどと、使うようです。確かに物事の読み解く力はとても大事なことです。そんな訳で、光のソムリエとしては、照明リテラシーを考えてみたいと思います。



リテラシーを身につけ、人に渡す

私が、照明デザインの世界に入った25歳の頃は、照明の読み解き方をほとんど知らぬままの状態だったと思います。働きながら、そこで初めて照明の基礎や技術を学ぶ、とても有難い限りの状況でした。いろいろ怖い先輩も沢山いらっしゃって 「こんなことも知らないのか!」と怒鳴られながらも、現場で仕込まれていったという状況でした。

そんな経験を幾年か重ね、やがて照明デザイナーとして自分の考えを人に説明する立場になりました。すると、今度は相手にデザインの意図をわかってもらうために、またはデザインを受け止めていただくために、照明の読み解きに必要な基本的なことをレビューした上で、デザインの説明に入るというというやり方をするようになっていったのです。このこと自体も先輩のご指導の賜物です。



照明や光のチカラを理解する人達

名古屋第二赤十字病院・NICUの打ち合わせの様子

そんな時代から30年もたった最近は、大分状況が変わってまいりました。それは照明リテラシーの高い事業者や依頼主が多くなってきたのです。日常的な照明への関心の高さ、様々な照明デザイナーが活躍していて、照明デザイナーとのコラボレーションが多くなってきたのがその理由なのでしょうが、経験的に色んなことを知っていたり、私に依頼する前段階で非常に深く勉強されていたりするのです。

たとえば、前回のブログで少しご紹介したレストラン・Fujiya1935のオーナシェフは私に依頼する以前に私の著書の内容を暗記するほどに読みこなしていらっしゃいましたし、また、名古屋第二赤十字病院のNICU(新生児集中治療室)の照明デザインをご相談いただいた先生(お医者様)の場合には、依頼された時点で私の著書はもちろん、相当量の照明関連の書籍を読破されていて、初めてお会いした時から、読み解き方を話すような瞬間もなく、いきなり専門的な、まるで同業者と話しているかのような内容だったので本当にびっくりしました。その後も、一緒に照明の空間作りをするときも、さまざまな問題に面して私が考えてきたことを学習されているので、それを私の代わりに第三者にご自身で説明されるのですから、照明デザイナーの私からはあんまり説明する必要がなくなってしまったほどです。(笑)



リテラシーが上がるとどうなる?

これらの例以外にも、全般的に照明リテラシーは高くなってきていると感じます。そうすると、照明デザイナーのほうにもさらに高度なリテラシーが求められるという、非常にすばらしい好循環を生む時代になってきているように思います。また最近は、事業主だけでなく、施工者や電気工事の方の照明デザイン・リテラシーも高く、私が提案した照明デザインを高度に理解いただいて、私が最後に調整や修正する必要がないほどに完璧に仕上げられているということがありました。

つい最近こんなこともありました。それは、スイッチを押してから照明が任意のレベルで灯るまでの時間をフェードタイムと言いますが、私は最後にその時間を決めようと思って現場に出向いてみると、「東海林さん、いろいろ試してフェードタイムは1.5秒にしてみたのですがどうでしょうか?」なんていう言葉が先に発せられるという嬉しい出来事も経験したところです。

私たち照明デザイナーは日々研鑽し、高度なリテラシーをもってよりクオリティの高い照明デザイン文化を育んでいかなければなりますまい・・・、そんなことを考えさせられる今回のお題なのでした。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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