投稿日 : 2012.05.17


興味深い絵本をいただきました

先日、ニューヨークに行ってきたー!という友人から「お土産です」との言葉を添えて、大変興味深い絵本をいただきました。何せその絵本のタイトルは「BLACKOUT」、日本語に訳すと「停電」や「消灯」という意味であったからです。
 
物語はニューヨークのある夏の夜の出来事です。主人公の少年は、アパートでパパ、ママ、おねえちゃんとの4人家族で暮らしています。その夜、少年はすごろくゲームをしようと誰かを誘おうとするのですが、みんな仕事に家事、友達との電話に忙しくかまってもらえません。
 
しかたなく、自室に戻りテレビゲームをしようとしたところ、突然部屋が真っ暗に! そう、街全体が停電になってしまうのです。



停電にワクワクした子供の頃の思い出

突然の暗闇に主人公の少年はびっくりして「ママー!!」と叫びます。すると、ママが懐中電灯を手に落ち着いた様子で現れ、階下の家族の元へと連れていってくれます。さっきまで忙しくしていたパパも今ではリビングに灯したキャンドルライトを利用し、影絵で子供たちを楽しませてくれました。


絵本「BLACK OUT(外部サイトへ)」より


やがて、エアコンが効かなくなった部屋は暑くなり、しかたなく家族4人で外に出てみました。すると、そこには今までに見たことのない素敵な世界が広がっていました。

電気の消えたニューヨークの夜空に浮かび上がった満点の星空と、それぞれのアパートの屋上では、キャンドルや懐中電灯の光を灯し音楽を楽しんだり、お菓子を食べたりと誰もが笑みを浮かべてパーティを楽しんでいたのです。
 
しかし、ほどなく街には電気が復活し、いつも通りの暮らしが戻るのですが、最後に少年はあえて明るくなった電気を消しました。そして、さっきまでの楽しかった家族団らんの時間をまた過ごす・・・そんな、ほっこりするような素敵なストーリーなのでした。
 
これを読んで、私も子供の頃によく経験した停電という出来事を思いだしました。昭和30年代後半から40年代にかけて、その頃は今日のようには電力供給が安定していなかったため、よく停電になっていました。家では、ローソクや懐中電灯を常備していて、停電になると、その都度手慣れた感じでそれを灯して過ごしていました。急にテレビが見れなくなったりしたのですが、それでもいつもとは違うローソクのあかりのもとに家族が過ごす時間は、子供心にワクワクするものでした。
 
それは、あたかも特別な時間がプレゼントされたような感覚だったのかもしれません。



暗闇をポジティブにとらえる心の余裕

最近は、少なくとも昨年の震災までは、夜にエアコンと電子レンジと炊飯器、そしてヘアドライヤーを同時使ったりしたときにポンとブレーカーが落ちることはあってもそんな長い時間の停電という事態には至らなくなりました。

しかし、大人なってから、久しぶりにちょっとした停電事件を経験したことがあります。それは今から12年ほど前のことなのですが、私はようやく独立を果たし、最初にいただいた小さなバーをつくる仕事が完成した時のことです。そのバー、のちに「闇のバー」と私が呼ぶようになったとても小さいけれど、無限の闇をデザインモチーフにすることで物理的な狭さを超えることができる・・・そんなコンセプトで創ったのです。事件はそのオープニングパーティーでのことです。


リカバー(闇のバー)

当日、14席ほどの本当に小さな店内には、その席数の3倍くらいの多くのお客様でいっぱいでした。大いに盛り上がっているその時です。突然照明がバンと落ち、なんと真っ暗に! 原因は停電ではなく、ブレーカーが落ちただけだったのですが、その時はすぐに原因がわからず、オーナーはもう真っ青です。お客様も一瞬固まりかけた、その時ちょっと面白いことが起きました。一人の女性が茶目っ気たっぷりに、

「えっ!?これ演出?隣の人とキスしていいってこと〜?」

と言い放ったのです。
 
すると、余裕のなくなっていたオーナーもその言葉に救われたというように、「あ〜スイマセン、ダメです!キス禁止です!」と叫び、その途端、お客様たちからウワーっと歓声が上がって場が温かい雰囲気に戻ったという微笑ましい事件だったのです。
 
現代の私たちの暮らしは、コンピュータを中心とした情報化社会となっていますので、突然の停電は必ずしも好ましいことではありませんが、「週末の夜は電気を消してキャンドルを灯そう!」的な自主的停電などは、日常的に明るい生活に慣れすぎた私たち日本人に「闇もまたよし!」と感じる良い機会になるのではないでしょうか? しかし、ニューヨーク土産でいただいた「ブラックアウト」なかなか考えさせられる良い絵本でした。日本語訳の出版も期待したいですね。



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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






vol.01 光の質にこだわっていますか?


vol.02 近未来の照明生活


vol.03 電球シルエットは不滅?


vol.04 ブラックアウト・停電


vol.05 照明国際見本市での小さな楽しみ


vol.06 「Light+Building 2012」レポート


vol.07 デイライト・ミュージアム


vol.08 ファッションデザイナーが作ったホテル


Vol.09 光をテイスティングする!


Vol.10 魅せられたルミナーレの光


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