Vol.50│アンプラグドなあかり

繋がないのは新感覚?

投稿日:2014,05,08

 

フランクフルトにて

こんにちは、東海林弘靖です。ひと月ほど前のことですが、ドイツ、フランクフルトで開催された照明の国際見本市「Light + Building (ライトアンドビルディング)」に行ってまいりました。2年に一度のペースで開催されるこの巨大な見本市は、メッセ・フランクフルト会場の全域を使って開催されています。そして回を重ねるごとに、その規模は大きくなっているようです。開催期間中は夕刻から関連イベント「Luminale(ルミナーレ)」として照明インスタレーションがフランクフルトの街のあちこちで展開されるので、この時期のフランクフルトは市を挙げて「光の祭典を成功させよう!」といった雰囲気に包まれます。

今回はこのルミナーレに日本人のライトモードアーティストこと、柏原エリナさんが参加していらっしゃるとお聞きしていましたので、現地でお会いするのを楽しみにしておりました。彼女の考える光のパフォーマンスは、RGB光の三原色を自在に調色できるシステム付きドレスをまとったパフォーマーさんが音楽に合わせてダンスをするというものなのですが、このドレスはただカラフルに光るだけではありません。パフォーマーさんが指し示す先の色をワイヤレスで離れたところに待機する柏原さんのもとへ送ります。その色をPCでグラフィック処理をし、さらにドレスのRGB調色システムに指示を送る・・・光のDJ、まさにライト・ジョッキーを行っているのです。





アンプラグド

柏原さんに今回のインスタレーションのしかけについて伺ったところ、ドレスはいわゆるアミューズメントパークのイルミネーションパレードなどで使われているようなもので、衣装には観衆からは見えない所にバッテリーが仕込まれているそうです。確かにドレスから電源コードが延びていると、パフォーマーが踊ることもできません。容量の比較的大きなバッテリーが開発されたこと、そして何より少ない電力でも明るく点灯することのできるLEDの登場によって、このような電源コードなしの照明を生み出すことができたのでしょう。

電源にコードをつながなくとも良い・・・すなわちアンプラグド。電源プラグからの解放・・・ここでちょっと思い出したのが十数年前に私が「光の音楽」を研究していた時に気に入って何度も繰り返し見ていた宇多田ヒカルさんのミュージックビデオのことです。ビデオの中身自体は宇多田さんの曲に合わせてスタジオの照明演出がデリケートに変化するのが、うっとりするほど美しいのですが・・・そのタイトルに付けられていたのが「アンプラグド」という言葉だったのです。

このときはじめてこの言葉を知ったのですが、このビデオはアメリカのMTV(音楽専門放送)の「アンプラグド」という番組で放送されたものだったのです。現代のポップスは、エレキギターに始まりキーボードやシンセサイザーといった電気的な楽器を使って、新しい音楽を生み出す傾向にありますが、この番組では、それら電気を使う楽器を一切使わずにボーカルとギターやドラムス、ピアノなどだけでシンプルに表現するというようなコンセプトであったのです。

(電源を)繋がない=アンプラグドという表現は当時とても新鮮に響いたことを思い出します。線で繋がれていることによる束縛感を断ち切り、新たな価値観を生んで行くのだ! という頼もしさを感じる言葉なのです。



インゴマウラーの新アイテム

アンプラグドでさらに思い出したのが、こちらのアイテムです。これは以前「Vol.32│ニューヨーク、3つの出逢い」でもご紹介したドイツ人デザイナー・インゴマウラーの率いるデザインチームの「MY NEW FLAME(マイニューフレーム)」です。

この時に紹介したのは、昨年のバージョンで乾電池を用いるタイプなのですが、市販の充電式電池も使えるというものでした。今年発売された新バージョンはこのライト単体で充電できるようになりました。さらに、充電式といっても従来の電源コンセントからの充電コードではなく、パソコンなどのUSB充電コードが付属しているのです。照明器具がUSBで充電できるようになったのは、照明器具がスマートフォンやタブレット型端末などと同じように、人の生活にフレキシブルにフィットするようになってきたのだろう・・・と、何となく新たな時代の到来を感じさせます。

しかし、考えてみれば、照明って元々アンプラグドであったのではなかったでしょうか! 照明はキャンドルやオイル灯で、自在に持ち運べるようなものであったはずです。それがいつの間にか、コードで縛られるようになってしまったのです。線が繋がっていることが当たり前で、明かりが安定的に供給されて点灯していることでそのことには何の懐疑心も抱かない・・・そんな照明感覚が根付いてしまっていますが、ここで、改めてその縛りをなくしてみた時に、新しい時代の照明に対する期待や希望を見つけることができるのではないでしょうか?


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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