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照明デザイナーの私にお店の内装もデザインしてほしいという話があった.クライアントは銀座の老舗バーのバーテンダーを長年勤め,独立して自分の店を新規開業するという女性である.本格的な大人のバーをつくりたいという依頼であった.このバーのテーマは,美しい闇と光のコントラストであり,オーセンティック・バーとしての凛々しさと居心地のよさを光と闇のバランスでつくりたいと考えた.まずは闇をどのようにつくるかが大きな問題となった.闇から徐々に光を足していって空間をつくることはよくあるが,闇そのものをデザインするのははじめての試みだった.光を完全に吸収し,まったく反射しない材料,反射率の低い黒という色の選択は不可避だが,単なるつや消し塗装では,わずかな光の反射がどうしても残る.これでは本当の闇をつくったとはいい難い.できればベルベットのような起毛した材料がないものかと素材選びからスタートした.その時思いついたのは,音を消してしまう吸音材である.音と光とは,どちらも共に振動をもつ波の仲間であるので,音響用素材の中に使えるものがないか探してみた.いくつかのサンプルを入手し,実際に光を当てて試してみると,その中に反射率0%にきわめて近いものがあった.この素材は,今回のバーのために開発されたものであるかのように,完璧に光を吸収してくれた.次は光をどうつくるか? という問題に移るのだが,これは空間の条件で絞り込まれた.間口が広く奥行きが浅い横長の空間だったので,まずは大きなファサードを構成する間口のガラス面を遮光しなければならなかった.遮光材に選んだオレンジ色に輝く光のスクリーンは,実は縄跳びで使うビニル素材のロープを10mmピッチで張り込んだものである.その面にAR70というハロゲンランプを100mmピッチで並べて下向きに照射した.この光をゆっくり調光していくと,バーのインテリアから外の景色が見えたり見えなかったりする.まさに光のマジックのような不思議なスクリーンができた.かくして今まで誰も体験したことのない,光と闇のコントラストの強い隠れ家のようなバーが完成した.
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AR70
直径が70mmのアルミ製反射鏡をもったハロゲンランプの呼称.ハロゲンランプからの直射を抑えるシールドがついていることで,反射鏡で制御された光のみを前面に発することができる.供給電圧は12V.ドイツOSRAM社製.
闇夜に提灯
待ち望んだ物にめぐり合ったことのたとえ.
同意語 旱天の慈雨
[三省堂 故事ことわざ辞典より]
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